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東京地方裁判所 平成12年(ワ)3482号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 大石剛一郎

同 木下淳博

被告 B

右訴訟代理人弁護士 國生一彦

同 齋藤義浩

主文

一  被告は、原告に対し、一一五八万三一八一円とこれに対する平成一二年三月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一七〇四万二六八一円及びこれに対する平成一二年三月八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被相続人の遺言により遺産の大部分を相続した相続人の一人に対し、他の相続人が遺留分減殺請求をした事件である。

二  争いのない事実

1  C(以下「C」という。)は、平成一〇年一月二五日に死亡したが、同人の相続人は、長男である被告、二男であるD(以下「D」という。)、長女であるE(以下「E」という。)、二女である原告の四名である。

2  Cは、D、E、原告の三名にそれぞれ六六〇万円を相続させ、その余の財産はすべて被告に相続させる旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をしていた。

3  Cの死亡時の遺産総額は、一億三六三四万一四四九円であった。

4  原告は、平成一〇年一二月二五日、遺留分減殺請求の意思表示をした。

5  Cは、平成元年ないし平成二年、被告、D、E、原告の四名に対し、それぞれ一〇〇〇万円を五〇〇万円ずつ二回に分けて贈与した(以下「本件贈与」という。)。

6  被告は、本件遺言により遺言執行者となったが、本件遺言によって原告が相続することになった六六〇万円を原告に交付していない。

三  争点

本件の争点は、原告らがCから受けた本件贈与の各一〇〇〇万円、合計四〇〇〇万円が特別受益に当たるか否かである。

右争点についての当事者の主張は、以下のとおりである。

1  原告の主張

生前贈与に関する持ち戻し(民法九〇三条)は、相続人間の実質的公平を実現させるための制度であるから、法定相続人四人全員に一律に渡された一〇〇〇万円については適用されるべきではなく、また、一〇〇〇万円は、法定相続人個々の生活状況の差異に関係なく平等に渡されていることからみて、生計資本の援助の趣旨とは解されず、Cの遺言が法定相続人四人に対する分割内容を明示していることからすると、一〇〇〇万円の贈与金を持ち戻すことを意図していなかったと解すべきである。

2  被告の主張

Cがした法定相続人四名に対する一〇〇〇万円ずつの贈与は、当時八五、六歳というCの年齢や贈与金額に照らし、相続財産の前渡しであり、特別受益に当たることは明らかである。平等にされたか否かは関係がなく、持ち戻し免除の意思があったともいえない。

第三判断

一  甲第七、第八号証によると、Cは、明治三七年七月二三日生まれであり、公正証書によって本件遺言をしたのは平成七年一〇月三一日であること、相続開始時のCの遺産は、そのほとんどが現金と預貯金であったことが認められる。

また、前記の争いのない事実のとおり、Cの相続人は、いずれもCの子供である原告、被告、D、Eの四名であるから、抽象的な意味での原告の遺留分は、八分の一ということになる。

二  次に、死亡時の遺産総額は、一億三六三四万一四四九円であるところ、Cの相続人四名は、平成元年ないし同二年に、二回に分けて各五〇〇万円合計一〇〇〇万円の本件贈与を受けていることは当事者間に争いがない。

そこで、Cから贈与された各一〇〇〇万円、合計四〇〇〇万円を特別受益として相続財産の中に持ち戻すべきか否かについてみるに、本件贈与がされた当時、Cは、八五歳ないし八六歳であったことや贈与された金額が一〇〇〇万円という多額なものであったことなどに照らし、本件贈与は、実質的には相続財産の一部前渡しとみるべきものであり、生計の資本として贈与として特別受益に当たるものと解するのが相当である。

原告は、本件贈与は、法定相続人に一律、平等にされているから、相続人間の公平を図るという持ち戻し制度の上からみて、持ち戻しの対象とはならないと主張する。しかしながら、民法一〇四四条によって民法九〇三条が準用されているものの、遺留分制度は、兄弟姉妹以外の相続人に認められた最低限の財産承継権であって、相続人間の公平を図るという観念から設けられた制度ではないから、相続人に平等に贈与がされているからといって、それだけで遺留分を算定する上での特別受益に当たらないとはいえない。例えば、被相続人が自分の死後の相続人間に争いが生ずることを懸念し、生前に、法定相続人に一律に遺留分相当額を贈与しておき、残りを特定の相続人に相続させる旨の遺言をしたような場合を考えれば、一律の贈与であるがゆえに、特別受益にならないとすることはできないことは明らかであろう。また、Cは、本件贈与の後に本件遺言をしているのであって、平等に贈与したからといって、特に持ち戻し免除の意思を表明していたと認めることもできない。

したがって、本件贈与に係る四〇〇〇万円は、遺留分算定にあたってはその基礎となる財産に組み入れられるべきである。

しかるところ、平成二年に贈与された四〇〇〇万円を相続が開始された平成一〇年の貨幣価値に換算するに、乙第二号証の一、二によると、我が国の平成一〇年の全国年平均の消費者物価指数は、平成二年のそれの一・〇九一九倍になっていることが認められるから、本件贈与に係る四〇〇〇万円の相続開始時の価値は、四三六七万六〇〇〇円(一名当たり一〇九一万九〇〇〇円)と認められる。

三  以上によって、原告の具体的な遺留分額を計算すると、遺留分の基礎となる相続財産の総額は、相続開始時に存した一億三六三四万一四四九円に本件贈与分四三六七万六〇〇〇円を加算した一億八〇〇一万七四四九円であり、その八分の一は、二二五〇万二一八一円であるところ、原告は、本件贈与により一〇九一万九〇〇〇円を得たことになるから、これを控除した一一五八万三一八一円が原告の具体的遺留分ということになり、ここから本件遺言により原告が相続した六六〇万円を控除した残額四九八万三一八一円が遺留分侵害額となる。

したがって、原告は、右遺留分侵害額四九八万三一八一円と相続によって取得した六六〇万円の合計一一五八万三一八一円を被告に請求することができることになる。

四  そうすると、原告の本訴請求は、右一一五八万三一八一円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一二年三月八日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大槁弘)

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